昭和21年2月半ば、マリアナ諸島に展開中の連合国軍はついに関東へ向け侵攻を開始、その口火は米海軍によって切られた。4千を超える史上最大規模の艦艇 数と圧倒的な火力を備えた太平洋艦隊第5艦隊の戦艦部隊は、関東一円に艦砲攻撃を行った。それを迎え撃つ大日本帝国軍に残された手段はもはや特攻しかなかった。
※実際の歴史時系列と異なり、架空の人物、固有名詞も登場します。
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■関東会戦 5 ―帝都激震
かくして昭和21年の紀元節は数多《あまた》の若い命が洋上に散ることからその日が始まった。
先陣を切った帝国海軍潜航部隊282名の特攻隊員は、皆二十歳《はたち》前後の若者たちで、航空兵科予科練生、専門学校生・大学生らが中心で構成されていた。その282名は全員壮絶な戦死を遂げ、海柱となった。
夜明け直前には、空からの特攻作戦が開始された。
160機余りの作戦機は、陸軍五式戦闘機や海軍紫電改など新鋭機は外されたが、残存するあらゆる “飛行可能な” 機体が攻撃隊に割り当てられた。
隼や零戦は、今次大戦初戦の華を飾った栄えある機体だが、いまは、他に転用可能な強化ガラス、計器、無線装置、機銃などを取り外し、機腹部や両翼に500キロ爆弾1基または250キロ爆弾2基を括《くく》り付けた体当たりのみを行う爆装機で往時の流麗な姿はない。先陣で死路を跳ぶ水先鳥であった。
またこれら “高級機” 以外にも対大型艦攻撃用として800キロ爆弾を搭載した陸軍百式重爆呑龍や海軍一式陸攻、低速で特攻になど凡《およ》そ不向きな海軍の白菊、九三式、東海など練習・哨戒機まで爆装させ出撃させた。
極めつけは、国内至る所で土地を国が接収し、そこに簡易飛行場を “建設” ―と言っても田畑を直線上に慣らしただけに過ぎないのだが… し、模型の如くブリキ材や木片・和紙で組立てた簡易航空機、「剣」とさらにエンジンを簡素化した「兜」を量産し並べた(ちなみに両機とも着陸脚は存在せず、“脚” は離陸補助輪のみで出撃後投下される)。だたし剣と兜の標的は上陸舟艇としたためこの攻撃隊からは外された。
陸海軍は、文字通り総力を挙げて挑んだ。
全機例外なく敵レーダー網に捕捉されないよう水面ギリギリを飛んだ。
隊員たちのほとんどは訓練らしい訓練など受けていない慣熟飛行であり、その上劣悪な機体状態や松根油《しょうこんゆ》など不純な代替燃料が割り当てられたため、海面に墜落してゆく機体も多くあった。
だがそれら特攻機も潜航部隊同様米艦艇に安々と近寄れなかった。
例え水面ギリギリに飛行しても米軍の張ったレーダー網に捕捉され、艦隊前衛に構える防空艦の放つ対空砲火の弾幕によって無残にも堕とされた。
昨年の薩南沖海戦ではどうにか敵主力艦近くまで迫れたが、今作戦では全く近寄れず、はかなくも陸海軍航空特攻隊160余機は全滅した。
これを受け日本軍は第二次攻撃隊の出撃を諦めざるを得なかった。
その後、米海軍戦艦部隊は、相模湾にいる第102戦隊と千葉沖の第104戦隊別働任務艦隊を除き11日正午には後方に下がり、入れ替わって揚陸支援部隊による湘南、九十九里両要塞と沿岸地区要衝への徹底したロケット攻撃が開始された。
この日の相模湾湘南海岸は、波は高いが雲一つない冬晴れとなった。
その澄んだ青空とは対照的に、連合国軍の放つ艦砲と日本軍が応射する沿岸砲、対空砲によって、黒い硝煙が湘南一帯を覆った。
沖合海上は、時間が経つにつれ、海面が見えないくらい連合国軍の艦艇で埋め尽くされていき、上空には艦載機群が舞っていた。
海岸線には、湘南要塞と称された三浦半島から延々と続く堡塁と鉄柵、トーチカが日本軍により築城され、その上を多数の導爆索気球が浮いていた。
湘南の海は、神々が創造した大地・海とは乖離した非日常的空間、ある種の機械美とも言える奇妙な光景がそれを見た人々の目に焼き付いた。
夜となった。
艦砲射撃は継続して行われ、海から放たれる砲弾は、横浜川崎のみならず、帝都一帯にまで達し降り注ぎ、それら激震は得体の知れぬ恐怖を人々に与えた。
人類がこれまでの戦争史上、経験したことがない規模の上陸作戦が関東で始まろうとしていた。
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大陸、支那戦線――。
昨夏より長期にわたり南京にて籠城戦を行っていた帝国陸軍支那派遣軍ではあったが、包囲する中英連合軍の前に武器弾薬は底をつき限界に達していた。
2月5日、総司令官宇佐義三大将(後に自決)は独断で全面降伏を決意、派遣軍中枢はこれをもって崩壊し、僅か4年前まで東亜を席巻していた大日本帝国外地派遣軍は、南方軍第18方面軍・ビルマ方面軍が守備するサイゴンと同軍第7方面軍及び海軍第1南遣艦隊が占領維持するシンガポール、その他孤立する一部の南洋島嶼基地のみとなっていた。
(注意)
※IF ワールド シミュレーション戦記です。
※一部の人名、固有名詞は架空のものです。
―続く― 【日本本土決戦(24)】