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山河残りて草木深し―日本本土決戦(24)

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連合国軍関東上陸侵攻作戦『コロネット作戦』は、昭和21年2月11日から本格的に始まり、対抗すべく数多くの若い命を散らした日本軍の特攻作戦は惨敗に終わった。そして史上最大規模の上陸部隊は関東沿岸、すでに目視距離まで迫っていた。

※実際の歴史時系列と異なり、架空の人物、固有名詞も登場します。

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■橘烈飛翔

2月12日午前6時21分、関東近海にて強襲待機していた連合国軍上陸部隊は、一斉に行動を開始した。
上陸部隊の主力は、米陸軍第8軍及び第1軍である。
4個師団から成るロバート・アイケルバーガー中将率いる第8軍は相模湾湘南海岸(相模川東側茅ヶ崎・辻堂海岸)へ、コートニー・ホッジス中将旗下第1軍4個師団は、九十九里浜(一宮川作田川間一帯)への上陸を目指した。
両海岸地区とも日本軍が築いた要塞堡塁があるが、戦車や大砲など大型兵器を含めた膨大な物資と兵員を揚陸させ、迅速かつ効率的に(ソ連軍日本本土侵攻前に)帝都並びに信州攻略を進める都合上、当地以外選択肢は皆無であり、連合国軍は日本軍主力正面へ躊躇なく突撃していかねばならなかった。
特に真っ先に上陸、第一撃を喰らわす先鋒《せんぽう》部隊は80%以上の高確率での死傷し、後続の橋桁となるわけだが、若いG.I.連中はそれをものともせず、故国合衆国のため、妻や子、家族や恋人のためのみを思い勇猛に砂浜へ走る。ある意味 “特攻精神” と相通ずるものがあった。

死闘序章相模湾、時同じく6時30分、朝日を背に突進する舟艇群に対し、空と海、同時に日本軍特攻隊が攻撃を仕掛けた。
空からは先述の簡易航空機、剣型で編成された陸海軍合同の “白虎隊” 総数57機が、洋上からは三浦半島岩礁内に隠された出撃基地から海軍の「震洋」型特攻ボート隊 “第608部隊” 92艇が迎った。
搭乗員らは10代のあどけない紅顔な少年兵たちだ。
彼らは「幼年航空科兵」もしくは「少年戦車兵」として入隊した16~18歳の形式的には志願兵だった。
が、実態は地区単位で在郷会などが、家庭一軒一軒を廻り召集した兵隊であった。

この攻撃は、連合国軍で予測済みであり、警戒中の対空艦と揚陸支援艇により大半が撃墜・撃沈せしめられた。どちらの特攻隊も低速な兵器であったため、奇しくも米兵たちの射撃の的と化した。
ただし白虎隊3機は例外で完璧に近かったはずの防空網をくぐり抜け、全機同時に後方LST―戦車揚陸艦 へ突っ込み、攻撃を受けた402号艦は、燃料導火により機関部が爆発火災を起こし瞬殺で轟沈。100名以上の死傷者とM24戦車16輌、機動牽引砲8門、その他揚陸物資が海没した。
また「震洋」1艇も揚陸支援艇間近まで迫り起爆、敵艇右舷に損傷を与え、米兵5名が死傷した。
ただしこの戦果は日本軍側からは視認できず、戦果未詳と判断され、続けて出撃する予定であった「剣」「震洋」両部隊それに水中挺身兵「伏龍」隊66名の海中配置は戦果期待できずと判断され中止となった。

なお東西60kmと長い海浜を持つ九十九里浜では、結果的に失敗したが零戦12機の航空特攻を試みた以外、洋上及び伏龍隊を含めた水中特攻は行わず、一宮、真亀、蓮沼などに挺身戦車隊、歩兵突撃隊を配置し、陸上で玉砕死守の構えをしていた。

海軍厚木飛行場。
敵が相模平野上陸間近の情報を得るや、航空機用機銃や大砲代わりの高角砲をかき集め陸戦隊が戦闘準備に入った。
そして敵機迎撃と上陸軍への攻撃をすべく新鋭機など出せる機体を全て飛ばすことにした。
ただ第1飛行隊雷電隊隊長の赤松貞明中尉などエースたちは、例え米兵であっても対人攻撃を好まず、敵機を堕とすことのみを公言した。

司令小園大佐は基地内の飛行士を集めた。
海軍航空隊のみならず、出向中の小林照彦少佐ら陸軍航空隊士たち厚木にいる日本軍屈指のパイロットが飛行服を着込んで搭乗員待機所 “相模梁山泊” に顔をそろえた。

開口一番小園は、これより厚木飛行場が陸戦前線基地となるため、搭乗員は出撃空戦後、本基地へ帰投せず全機長野飛行場もしくは東北方面の陸海軍飛行場のいずれかに向えと通達した。
この時、不幸にも木場敬一少尉率いる紫電改隊の隊長機含めた6機全機は、度重なる出撃と今し方空戦から帰還直後であったため、燃料弾薬不足かつ疲弊した機体の再整備が間に合わず上げられなかった。
木場はとっさに紫電改の代替機を思いつき近くにいた整備班長に言った。

「おい!エンテ6翅(し)の震電、震電は出せるか!」

もちろん本来であれば機体割り当ては戦術に大きく影響するので、勝手に現場で変換など出来ないのだが敵上陸というドラスティックな局面であるため誰も文句やとがめなどない。

「少尉、ダメです。駐機全機シャフトと電気系統に問題が…」

「ちっ、そうだ、アレだ…、ジェット…」

「橘烈ですか!」

「そうだ橘烈、橘烈だ。出せるか!」

それに対し、班長隣にいた中島飛行機の軍属技師が言った。

「行けます!3機なら! ただ知っての通り実戦試験前の…」

「構わん!壕からもってこい。装弾したら直ぐに回転させろ」

これまで橘烈は、基地より北2キロほど離れた秘匿掩体豪に格納していたが、偶然にも実戦テストを数日後に控えていたため、滑走路直ぐ近くの半地下駐機場に係留していた。
そして、砲鳴轟く中、被弾防止網を被せた橘烈が、滑走路に運び込まれた。

搭乗するのは隊長の木場と、彼の部下で沈着な腹心、鳥尾一等飛行兵曹それに強健強靱な身体と精神力を持った、大平一等飛行兵曹が選ばれた。

技師が木場たちに一通りの説明をする。

「少尉。基本操縦、武器制御は紫電改と同様です。ただし推力と速度がケタ違いですから操縦桿とラダーは遊びが少なく硬いです。それと空戦フラップは構造上装備不可能ですので」

さらに言い忘れたかのように、ひと言付け加えた、

「あ、あと判らないスイッチやレバーは押さないください」

と言って木場らを笑わせた。
木場が部下2名に言った。

「鳥尾、大平行けるかっ」

それに対し鳥尾と大平は、

「機体や操縦席が違っても直ぐに自分の手足になります」

「自分たちは型どおりの訓練などしてません。これで大東亜を生き延びてきたのですから!」

と返答した。

しばらくして、橘烈の準備が完了したとの連絡を受け、3人は滑走路へ走った。
その途上木場は、錨印が入った鉄兜を被り、陸軍の騎兵銃を片手に手榴弾をベルトにぶら下げた大柄の男に声を掛けられた。それは当基地の海軍特別陸戦隊隊長だった。
パイロットたちは、普段から威張っている陸軍将校のようなこの男を嫌っていた。

「木場!この丘での相撲は俺たち陸戦隊に任せろ。思いっきり空を斬り込んできてくれ」

「少佐…、宜しく頼みます」

「ふん、今度酒を奢るぜ。もっとも三途の川向こうの居酒屋かもしれねぇけどな。ワッハッハ」

もちろん挺身覚悟の陸戦隊は帰る場所もなく、厚木の地で玉砕を覚悟しているはずだった。
こみ上げる感情を殺し、木場たちは陸戦隊長少佐に直立で海軍式敬礼をし、その場をから滑走路へ走り去った。

誘導路から滑走路上に押し出された橘烈は、スターターがオンされ既にコンプレッサーが回転していた。

3人はコックピットに飛び乗った。

整備兵が言った。

「少尉!回転数正常です。イグニッションスイッチを入れてください! そして武運を!」

雷電隊の赤松中尉も後から木場のもとに走ってきた。

「ケイチャン 新型機壊すなよ。飛ばす自信がなかったらオレの雷電と交換してやってもいいぜ。なんてな」

「松チャン お先に!」

木場は赤松に機上から敬礼しイグニッションスイッチを押した。
そしてピッチ安定確認後スターターを切った。

全てのシークエンスを完了させ、3機の橘烈は推力480kgを誇るジェットエンジン「ネ20型」のけたたましい音を立てながら唸りを上げ高速で順次滑走し離陸していった。

(注意)
※IF ワールド シミュレーション戦記です。
※一部の人名、固有名詞は架空のものです。

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―続く― 【日本本土決戦(25)】