こんにちは、imakenpressと申します。

山河残りて草木深し―日本本土決戦(37)

〈目次へ〉

連合国軍は神州帝国軍最後の牙城、 信州長野に本格的侵攻を開始した。日本という国家は果たして壊滅の道を歩むのだろうか。それとも…

※実際の歴史時系列と異なり、架空の人物、固有名詞も登場します。

—–◇————————

■信州散花 2 ―峠

「ロケット一撃! できるなっ」

木場は久々に戦場で出会えた好敵手に闘志を燃やした。
そして即座に脳内で戦闘シミュレーションを行った。

敵は間違いなく我らに燃料を多く消費させるために巴戦、格闘戦に持ち込む気だ…それと橘烈の性能を甘く見ている…だが冷静に観て敵戦は橘烈と同じく実戦用としてはまだまだ未熟…

敵戦闘機もジェット、しかしエンジンパワーは別として機動性能、安定性に欠けている。
木場はそう判断した。

「よし、西だ飛騨山地へ。山の神に助力願うか」

木場は機体進路を西に向け、まるで敵を “決闘場” に誘い込んでいるような仕草で飛騨山脈方面に飛ばし、烈神隊鳥尾と大平、陸軍火龍隊奥平も後に続いた。

「こちらフェニックススリー、どうします? チャック隊長」

「決まってんだろ。追うぞ。我らはツバメ殺しだ」

イェーガーは基本的に挑発されると黙ってはいられない性格で売られたケンカは買う。
第201A哨戒中隊は、4機の橘烈を追撃した。

「ふっ、追ってきたな」

木場は空戦電話で僚機に呼びかけた。

「いいな。バカハヤブサ作戦だ。橘…速…だ………」

以後、木場からの無線は僚機に届かなかった。
搭載されている五式空一号改三型無線電話機はたいへん秀逸で高度な空戦用通信機だが、変調増幅回路に使われているmT真空管の品質が悪く時折通信不全に陥った。
蛇足ながら真空管は、開戦前の対日輸出規制直前に駆け込み購入した “米国製” 量産品だった。ちなみに隊長機用通信機は高出力タイプとなっており、そのぶん真空管トラブルも多発したと言われる。

「クソっ、安物mT管がっ」

大平がぼやいた。
ただ唯一聞き取れた “バカハヤブサ作戦” は信州転戦直後に木場が考案した空技で、烈神隊の2人はこの戦術を熟知していたため、木場の真意を理解した。

「火龍隊奥平曹長機へ。貴機は我が隊軸5時上空1500メーター離れて哨戒しろっ」

戦術を理解していない陸軍火龍隊奥平に鳥尾が呼びかけ、奥平は諒解を返答した。
烈神隊はまるで試験飛行のように低速で西に向かって飛行していた。

「ジャップス空軍めバカにしてんのか? あんなヨタヨタジェット。早いとこ叩き落とそうぜ」

そう言ったのは6番機のギャレットだった。

「こちらボイドだ。ギャレット急《せ》くな。連中の作戦かもしれん」

隊で一番若い20歳のギャレットを副隊長のボイドが諭した。
しかし6番機は執拗に烈神隊の真後ろに機体をつけ、照準する機会を狙った。

常念《じょうねん》山脈が見えた頃、木場とそれに続く鳥尾、大平の3機は急下降し稜線すれすれを飛び越えた。

奥深い飛騨山中にけたたましいジェットの爆音が響き渡った。

「山の神よ許してくれ!」

木場は常念山脈を飛び越えたと同時に機体を下方に向け、さらに舵を右へ切って北へ旋回後、仰角で高速急上昇を掛けた。

「うっ、うわーーーっ!」

第201A哨戒中隊、ギャレット曹長のシューティングスター6番機は、谷から吹く突風に煽られ機体が制御できず、正面の岩稜に激突し微塵と化した。

木場の “バカハヤブサ作戦” はまさにこれで、敵を油断させ地面に叩き落とす隼の狩猟を真似た戦術であった。
かつ飛騨山地の地形を利用した。
南北に走る常念山脈の更に西側に標高3000Mを越える穂高連峰があり、中間は飛騨焼岳の噴火造山運動の結果できあがった上高地へ流れる槍沢・梓川の急峻な谷である。ここは地形上突風を生みやすく、こと航空機が飛行するにはよほどの操縦技量がない限り大変危険である。

木場はこの地形を逆手に取った。
あっという間の出来事に、距離と高度をとって追撃していたイェーガーたちはあっけにとられた。

「ここがJapanese Alpsか…」

イェーガーは、日本へ渡洋したときに乗船した海軍飛行艇内で知り合った陸軍兵、ハンス・ブラウン軍曹から「俺はもう読んだ。チャック、アンタにやる」と言って貰った日本の風土を中心に山岳や自然を紹介する書物、Walter Weston著 “Japan” に『日本のアルプス』として書かれていたことを思い出していた。

「よし、こうなったらとことんサムライファイターと闘おうぜ」

細く笑ったイェーガーは、生死を賭した航空戦ながらも、まるで馬駆レースをしているかのように日本上空でのジェットゲームにのめり込んでいった。

—-

 

5月1日22時、米英軍を中心とする総兵力48万6200の連合国地上軍は一斉に信州攻略作戦へ動き出した。
中仙道からはドワイト・ボイル少将率いる「北部侵攻軍」が、甲州街道からはアルヴァン・ギレム中将率いる「南部侵攻軍」が攻め上がり、4日までに前線拠点と定めていた長野原、横川、甲府・韮崎に部隊大半の進出を果たした。
両軍団は一部不通区間があったものの、米陸軍特別編成第1190鉄道大隊の手により修復工事された信越本線や中央本線など既設鉄道網を利用できたことが幸いし、機甲師団を含めた大部隊と大量物資の輸送(運用は北米NPR社に委託され、機関車を含めた車輌はとうぜんながら日本製蒸気機関車、機関士は主に在日朝鮮人が雇用された)が迅速に行えた。
そして連合国軍は、スティーブン・フォスター作戦の野戦総司令部を群馬県高崎に設置し、4日午後には総司令官ブライアン・カーヴィル大将も司令部入りした。同時に米英など連合国の新聞記者たちが、今次大戦が終結するであろうこの一大作戦を取材するため続々と高崎に集まった。その中には大日本帝国の終焉を見届けるため、沖縄と
九州の戦線を従軍取材してきたアメリカAS通信社記者、スコット・オルティスもいた。

更に米海兵隊が、新潟市内を制圧しているソ連赤軍第8320騎兵旅団の協力を得て、4月15日上越海岸に上陸し直江津と糸魚川を即日制圧した。これは同22日(ハワイ時間)、ソ連との日本暫定占領計画を話し合ったオアフ協定締結前を狙ったアメリカ側の策略であった。
北日本を制するソ連軍は、新潟への海兵隊進出を認める代わりに警戒部隊として1個大隊を新潟長野県境付近の信濃川河口付近に配置させることをアメリカ側への条件とした。
また主力軍団とは別に英軍山岳コマンドと同グルカ部隊、仏軍第5外人部隊など精鋭部隊が上信越山地や秩父連山など山岳地帯から信州に突入していった。こと山岳踏破にに慣れているグルカ傭兵は、関東上陸直後から信州の山域偵察をつぶさに行い、彼らの偵察データからスティーブン・フォスター作戦司令部は連合国軍全軍の峠越えルートを決定していた。


信州に入る各峠まで連合国軍は迫っており、信濃京一帯でも既に連合国軍の放つ砲声が響き渡っている。

神州大日本帝国政府首脳は、この期に及びながらも、松代地下壕で臨時閣議を開いていた。
但し閣僚といっても、本時点では昨夏政変時とは大きく様変わりしており、大半の大臣は罷免もしくは更迭させられ(帝国憲法は非常大権により停止しており白谷政権の独裁国家と化していた)、事実上5人が各ポスト兼任をし、陸海軍省は既に政変時に廃省しており、軍事面においては最高戦争指導部が総隊軍と共に大本営と参謀本部を機能吸収し一元化した。

閣議は戦況報告と最後の一兵まで戦い抜く方針が決議されたが、白谷総理を始めいつものように勇ましい発言も皆からなく低調に終わった。
完全に死に体国家と化していた。

白谷が地下壕にある執務室に戻った。そこにはいつものように生田隆栄と神州救國会の戸崎信三郎が待ち構えていた。

「第15方面軍からの援軍はどうなっているのだ。椚田《くぬぎだ》を何をしておるのか」

白谷は書類を机に叩きつけ苛ついた様子でそう言った。
それに対し戸崎は、

「閣下、もはや椚田大将は我らの同志にあらず。賊軍であります。当てにしてはなりません」

数多の危険な橋を渡り歩いてきた生田も焦燥感を隠せず戸崎を問いただした。

「戸崎、ではこれからどうすれば良いのだ。そもそもお前の口車にワシらは共鳴したのだぞ!」

「生田さん、それはないでしょう。アンタだって満州時代に天皇を中心とした建武の新政のような国が理想の国家像だと言って、いつかそういう国を作ろうと私に仰っていたじゃないですか…」

戸崎は言葉も荒げずに冷静にそう言って、「秘策はあります」とひとことだけ言って執務室の外に出た。
室外では彼の腹心にして快刀でもある三田村淳吉が戸崎を待っていた。

「三田村、この足で蓮彦王《はすひこおう》の所へ行くぞ」

「いよいよ実行ですか。して脱出方法は?」

「雪はまだ深いが、安房の間道を越え飛騨に入り美濃にいる救國会同胞を頼って敦賀まで行き渡鮮する。大陸に入れば我々の庭だ。後は馬賊、厳祥珀《げん・じょうぱく》の手を借りる」

「厳祥珀こと佐竹祥太朗ですな。生きていれば良いのですが。では良松宮殿下のところへ」

—-

 

西日本守備の第15方面軍司令部は戦災を免れていた京都に司令部を移していた
そして同方面軍は既に独自の動きをしていた。
軍司令の椚田与一《くぬぎだ・よいち》大将は、白谷と同じ皇道派軍人だが、同時にヒューマニストとしても内外に知られていた人物であった。

既に切迫の度を超えた戦局と、彼の受け持つ西日本、広島に投下された新型爆弾(すぐにプルトニウム型原爆であると判った)による惨状の報告を各方面から受けていた彼は、昨夏より終戦工作機関「光明会」と水面下で接触し自分なりにできうる米英との和平を模索していた。

「まるで関ヶ原か御維新の時のようですね」

椚田の傍らにいた参謀、横内大佐がそう言った。

「そうだ。我ら第15方面軍の動き次第でこの国の将来、民たちの運命が決まる。もう後戻りはできないぞ横内君」

「もとより白谷と刺し違える覚悟です。賊軍となろうが国を憂える気持ちは変わりません」

「よし。我が方面軍はこれより正式に神州軍とは決別する。大佐、全将兵に伝達せよ。それと待たせてある古尾さんを呼んでくれ」

椚田は、方面軍司令部に来ていた前侍従長である古尾勝吉と面会した。
古尾も前総理の鈴村同様政変後、丹後与謝野に軟禁され、先月第15方面軍により解かれた。

「閣下、ようやくご決心されましたな」

「古尾さん。私はただ皇国2600年の灯を守り、この国に生まれてくる子らに山河を残してやりたいだけです。はっははは、いざとなればこの老臣ひとり皺《しわ》腹かっ裂けば済みますから」

「判りました。では早速光明会が御前立ていたします。まずは葉山と連絡を取りますので」

第15方面軍は正式に大日本帝国陸軍(神州帝国軍)を離反し、第15方面軍は神州政府及び連合国軍への通達と当時に東の長野県境へ直ちに兵力を集結させた。
神州帝国軍は超法規的手段で政権を奪取した主義者たちの夢想集団であり、解釈の仕方によっては椚田の離反イコール賊軍化という図式は単純に成り立たず、まさに関ヶ原か戊辰戦争の時に大名たちが、二分する勢力のどちらにつくかという時局と同じであった。

—-

 

5月4日未明、ウィリアム・スラッテリー大尉率いる米陸軍特殊部隊SOC、通称 “カラス組” は群馬県嬬恋《つまごい》まで進出していた。

「キャプテンウィル。あの尾根を超えて下ったところが松代です」

アオキがスラッテリーにそのように言った。

「ここまで来たか。すぐ隣りの峠には英軍コマンドと仏外人部隊、南は連合国軍本隊、そして北から海兵隊がこの国の最後の城を取り囲んでいる。さてとコーチ、今度は鈴村救出と同じようにはいかんぞ」

「そうだなウィル。しかし興奮するねぇ、百万の軍団が俺たち作戦の成否如何とはね」

ブラウンは次なる作戦の内容を熟知しそう答えた。
そして作戦の立案者で実行部隊に同行までしているアオキは、いつも以上に緊張していた。
作戦の成否もさることながら、米国籍で日系二世の彼の血に流れる日本人として心中奥深くに眠る魂がそうさせていたのかも知れない。
それはカラス組の任務が、アオキの言う “日本の根幹であり、敬愛すべき父君” 天皇をクーデター政権である白谷一派から救出することであったからだ。

「あとは加治木の出方次第。イチかバチか…」

昭和21年5月、いよいよの時が迫ってきたのだろうか。
信州各峠にはそれぞれの思惑や信念、もしくは愛や憎悪を持った人々が集まり、世界中の目もこの一点に差し向けられていた。

(注意)
※IF ワールド シミュレーション戦記です。
※一部の人名、固有名詞は架空のものです。

←前話へ戻る

―続く― 【日本本土決戦(38)】